ザワツキ
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ケーススタディ約9分

探偵選びで失敗しそうになった話

30代後半女性/神奈川県川崎市在住

私は、自分の判断力を信頼していたタイプだった。仕事でも、買い物でも、比較や下調べはちゃんとする。だから、まさか自分がその一線を越えそうになるなんて、思ってもいなかった。

この記事は、実際によくある相談パターンをもとにしたケーススタディです。

カフェで一人スマートフォンを見る人

焦りが、最初の判断を狂わせた

きっかけは、夫の出張先のホテルから届いた、明らかに「ひとり用」ではないアメニティの写真がSNSに上がっていたことだった。夫は、出張だと言って週末まで家を空けていた。その夜、私は怒りと不安で、ほとんど眠れなかった。

朝、布団から起き上がって、最初にしたのが「探偵 浮気 即日」と検索することだった。最上段に出てきた事務所のサイトを開いて、五分後にはフォームを送信していた。そのときの私は、比較するという発想を完全に失っていた。

午後、その事務所から電話が来て、その日の夕方には来訪の予約が入っていた。

事務所のテーブルで、息ができなくなった

通された応接室は、必要以上に立派だった。出てきた担当者は、とても自信ありげで、私の話をひととおり聞いたあと、こう言った。

「これはもう、放置すれば証拠が消えてしまう案件です。今日のうちに動かないと、間に合いません」「今日中に契約していただければ、特別キャンペーンで30%オフです。明日からは適用できません」「いまサインしていただければ、今日の夜から動けます」

机の上には、すでにペンと契約書が置かれていた。契約金額の欄には、私が想像していた数字の倍近い数字が入っていた。一方で、届出番号の説明や、解約条件、追加費用の発生条件についての話は、ほとんど出てこなかった。

私は、半分パニックの状態で、それでもどうにか「一晩、考えさせてください」と口にした。担当者の表情が、明らかに曇った。「明日になると、特別価格は適用できませんよ。本当に、よろしいんですか」

その瞬間、急に、息ができないような圧迫感を覚えた。これは、契約してはいけない場所だ。言葉にできなかったけれど、体が先にそう判断した。

家に帰って、震えながら検索し直した

家に戻って、ノートPCを開いた。今度は「探偵 選び方」「探偵業 届出番号」「探偵 契約書 注意点」と、別のキーワードで検索した。そこで初めて、自分が午前中に見ていなかった世界を見ることになった。

探偵業を営むには、公安委員会への届出が必要

契約前に重要事項説明と契約書面の交付が求められる

料金体系と追加費用の条件は、書面で確認するべき

契約を急がせる事務所は、慎重に検討する余地がある

報告書のサンプルが見せてもらえる事務所を選ぶ

午前中の事務所のことを思い返した。届出番号の話は、出ていなかった。契約書を渡されたタイミングで、重要事項の説明は、ほぼなかった。追加費用の説明は、口頭でひとことだけ。報告書のサンプルは、「個人情報があるので」と提示されなかった。

自分が、いま、契約しなくて、本当によかった。震えるような安堵が、夜中の机のうえに落ちた。

翌日、別の事務所を三つ並べた

私は、翌日からやり直した。まず、届出番号がサイトの分かりやすい場所に書かれている事務所を、五件ピックアップ。そのうち三件に、同じ条件で見積もりを依頼した。報告書のサンプルを見せてもらえるか、解約条件はどうか、追加費用はどう発生するのか、それぞれ書面で確認した。

三社の見積もりを並べたとき、料金にも、説明の丁寧さにも、明確な違いがあった。最安ではないけれど、説明と契約書がいちばん整っていた事務所に、私は依頼を出した。

依頼してから、感じた違い

最終的に契約した事務所は、最初の事務所と、何もかも違っていた。

打ち合わせの最初に、届出番号と探偵業の説明があった。契約書面は、項目ごとに丁寧に説明され、解約条件のページに付箋が貼ってあった。「サインの前に、一晩持ち帰っていただいて構いません」と、向こうから言われた。追加費用が発生する条件は、別紙にまとめて手渡された。

このやり取り全体を通じて、私は「自分が依頼者として尊重されている」という感覚を、初めて持った。最初の事務所では、たぶん、私は契約を取るための"対象"だった。新しい事務所では、私は意思決定をする"主体"だった。この違いは、料金の差以上に、調査の体験そのものを変えた。

"焦らない"を合言葉に

依頼が無事に終わって、報告書を受け取ったあと、私は自分のスマホのメモアプリの先頭に、こう書いて固定した。

焦らない。今日中に決めない。一晩は持ち帰る。

この一行は、これからの自分への約束だ。人生のうちに、何度かは、また「今日決めなきゃ」と急かされる場面に出会うかもしれない。そのときに、この一行を見て、もう一度深呼吸する自分でありたい。

あの日、自分を救った"一言"

今でもときどき思い出す。あの応接室で、担当者の圧に押されて、ペンに手が伸びかけた瞬間。私が口にできた言葉は、ひとつだった。

「一晩、考えさせてください」

たったそれだけの言葉だった。でも、振り返ると、あの一言が、人生のいくつかの選択肢を守ってくれた気がする。「考えさせてください」は、敗北の言葉ではない。むしろ、依頼者として最も強い言葉だと、いまは思う。急かされた瞬間に、相手の流れに乗らずに、自分の流れに戻る。それを可能にする呪文のような一言を、誰にでもひとつ持っていてほしい。

私のは「一晩、考えさせてください」。あなたのは何になるかは分からないけれど、自分の言葉で、用意しておく価値はある。急かされている瞬間にこそ、その言葉は本当の力を発揮する。

学んだこと

焦りそのものが、判断のいちばんの敵だった。焦っているとき、人は、最初に目に入ったものに飛びついてしまう。そして、目に入ったものは、必ずしも、自分にとっていちばん良いものではない。「今日中に決めてください」と言ってくる場面ほど、いったん持ち帰る。これだけは、絶対に守りたいと思った。

もし、いま「もう一秒も待てない」気持ちで動こうとしている人がいるなら、ひとつだけ約束してほしい。最初に問い合わせた一社で、その場で契約しないこと。持ち帰る一晩は、人生の中で、いちばんコスパの良い夜になるかもしれない。

Note

本記事は一般的な情報整理を目的としたもので、法的判断や個別の助言を行うものではありません。 違法な確認方法は避け、判断に迷う場合は弁護士・探偵事務所・消費生活相談窓口などの専門窓口へ確認してください。